中国の人権派弁護士に対する攻撃の実態
2010年5月2日 紀碩銘（チー・シュオミン）
翻訳 河内謙策
高智晟（カオ・チーション）、郭飛雄（クオ・フェイシオン）、許志永（シー・チーヨン）などの14人の人権派弁護士は、『アジア・ウィークリー』によって2005年の風雲児に選ばれた。4年後に彼らは攻撃され、かれらをめぐる状況は極めて悪化した。しかし、中国においては、近年、多数の正義感のある、良心的な弁護士が現れており、彼らは法律を用いて勇敢に正義を守っている。
人権派弁護士に対する攻撃は、演劇にたとえることができよう。脚色演出家も監督も皆そろっている。ただ彼らは、舞台の後に隠れている。劇の筋は起伏に富んでいて、舞台に立つ役者は、北京の人権派弁護士高智晟（カオ・チーション）である。彼に対して執行猶予の判決がなされた後、国際世論が高智晟の「国家政権転覆煽動罪」に疑問をいだいていたため、彼は世間に対してはいなくなるよう圧力を受けた。その後、彼は山西省の五台山に現れ、更にその後、北京に戻ってAP通信の訪問を受け、何人かの友人と会った後に、公衆の前からは再び消えてしまった。しかし、北京の関連部門の圧力がやや弱くなり、幕が降りた舞台裏を覗いてみると、AP通信の訪問を受けるように、また何人かの友人に会うようにと北京の関連部門が指示を出していたのである。高智晟が自由のように見えるとしても、実はそうではなく、彼がメディアの訪問を受け入れる時にも五台山の公安によるテープ・レコーダーは回っていて、「たとえ彼が家に何日かいるにしても、彼の言行は完全に監視し、チェックされているのである。」
司法の深刻な不公平が存在し、高智晟は不公正な扱いを受けているけれども、劇の幕はまだ降りていない。『アジア・ウィークリー』の記者が4月18日から３日連続して北京の高智晟の家を訪問したが、彼の家は表門をはじめとして鍵がかかっており、窓のカーテンも引かれて、主人が遠方に出かけていることを示していた。しかし、親密な友人達は、彼がどこに行ったかを知らない。彼は、依然として不幸を被っているのではないだろうか。李和平（リー・ハーピン）弁護士は、3月28日と29日に、五台山にいる高智晟と電話で話をした。4月6日に高智晟は北京の家にもどり、4月7日に李和平弁護士は彼を見舞った。李和平弁護士は高智晟を近くから観察して、『アジア・ウィークリー』に対して、「家にいたのは彼だけで、彼の顔は歪んでいた。彼が長期にわたって大きい苦痛と圧力を受けたことを感じさせる。彼の体の状況は良くない、夜にはいつも咳きが出て寝れない、と彼は話していた。」と語っている。
4月8日の朝、李和平弁護士は高智晟に対し1冊の聖書を贈った。李和平弁護士は、「彼はキリスト教徒だから、聖書を読みたかった。しかし、当局は、聖書を与えなかった」と語っている。夜、李和平弁護士、李方平（リー・ファンピン）弁護士等は、高智晟の家で、彼と食事を共にした。高智晟は、大きな御椀を手にして麺を食べた。「長期にわたり、良いものを食べていないように見える。」この時に彼と会った人は皆、彼に不利なことが公になることを恐れて話したがらないが、「彼が以前と同じように精神的には高い位置を保っている」と異口同音に述べている。
人権を擁護したがゆえに、2006年12月21日、北京市第一中級人民法院は高智晟に対し、国家政権煽動転覆罪で懲役３年、執行猶予５年、政治的権利剥奪１年の判決を言い渡した。中国の法律では、執行猶予中、身柄は拘束されないが、高智晟は、公安のコントロールの下にある。2009年2月4日、陜西省の家から警察に連れ出され、それ以降、行方不明になってしまった。今年の1月14日、高智晟の兄・高智義はAP通信の電話での取材を受けて、警察が09年9月に「高智晟は迷子になった」と言ったことを認めている。中国の外交部のスポークスマン馬朝旭は定例記者会見の席上、「彼は中国の法律に基づき、居るべき所にいる」と述べて、当事者や家族のことを顧みないその発言により国際社会を驚かせた。
不公平な社会を変える、不公平な司法を変える、これは今年の二つの会議の前後に温家宝首相が約束したことである。外国人も参加した記者会見の席上、温家宝首相は、中国社会にはまだ多くの不公平な現象が存在しており、所得の分配は不公平だし、司法も不公平である、国家の発展は経済建設をきちんとするだけでなく、社会が公平で正義に基づいているようにしなければならない、そして、人の全面的で自由な発達を促さなければならない、「社会が公平であることは正義で、社会の安定の基礎である。私は、正義にもとづく公平は、太陽のように輝くべきだと考えている」と述べた。不公平な司法を変えていくことは温家宝の一貫した理念である。2008年5月4日、温家宝は中国政法大学にやってきて、法治について学生と懇談し、中国政法大学の入り口の石の上に「法治天下」と書いた。彼の「法治天下」というのは、天下を法によって治めるということによって、党が治めるということを巧みに避けた言葉である。
すき間の中で生きる
弁護士の制度は社会正義を守るためのものであるが、弁護士自身が社会正義によって守られないのであれば、社会正義はどうなってしまうであろうか。有名な人権擁護の弁護士李和平（リー・ハーピン）は『アジア・ウィークリー』に対して、以下のとおり述べている：「高智晟は、もともと執行猶予期間中も自由であるべきであったが、現在、執行猶予期間が満了したにもかかわらず、彼の自由は剥奪されている、彼の尊厳が奪われているだけでなく、司法の不公平も問題である。」李和平は、政府は権利を擁護することを怠り、弁護士の粗捜しをしているけれども、弁護士というのは、すきまの中で生きており、その果たすべき役割は気まずいところもあり、そのしている仕事は一直線ではないが、そこに弁護士の職業的価値が存在する、それは社会に対して一種の平衡作用、安定作用になっている、と述べている。
人権擁護のために、北京の弁護士唐吉田（タン・チーティエン）と劉巍（リョウ・ウェイ）は、まるまる１年間資格証明証を発行されず、執務資格を剥奪された。最近、北京の司法局は彼らについての公聴会を開いたが、そこには大量の人権擁護の支持者が押し寄せた。北京の楊在明（ヤン・ザイミン）弁護士、宋玉成（ソン・イーチョン）弁護士は、黒龍江省の高等裁判所で王子伸ら512人の建物取り壊しの補償事件を審理中、高等裁判所の警備員に殴られ取り押さえられた。
法律の高みに立って敏感な事件に足を踏み入れる「人権派弁護士」は、社会の公益を守り、勇敢に公権力に挑戦し、権力に対して法治をかかげる。地方の当局から妨害を受け、殴られたり脅されたり、甚だしい場合には牢獄に入れられる。しかし彼らは、中国に法治の光が輝く日がくることを固く信じている。中国の司法が今後も不公平であるならば、人権派弁護士たちは前面に出ることになるであろうし、彼らはその使命を果たすであろう。
風雲児は今どこにいるか
4年余り前の2005年の末に、「中国人権派弁護士」は、この年度の『アジア・ウィークリー』の風雲児になり、『アジア・ウィークリー』は「中国の法治の前衛 人権派弁護士」と題して14人の代表的人物を紹介した。紹介されたのは、北京の法学博士許志永（シー・チーヨン）、高智晟弁護士事務所の高智晟（カオ・チーション）北京華一弁護士事務所のトウ彪（タン・ピアオ）弁護士、莫少平弁護士事務所の莫少平（モー・シャオピン）、北京大学の法学博士李柏光（リー・パイクァン）、上海の弁護士鄭恩寵（チャン・エンチョン）、広東太石村のリコール運動法律顧問郭飛雄（クオ・フェイシオン、本名楊茂東、別名郭飛熊）、北京華一弁護士事務所の浦志強（プー・チーチャン）、上海弁護士郭国汀（クオ・クオティン）、北京高博隆華弁護士事務所のパートナー李和平（リー・ハーピン）、中国社会科学院法学博士范業峰（ファン・イエフォン）、京鼎弁護士事務所の張星水（チャン・シンシュイ）、山東の人権活動家陳光誠（チェン・クアンチャン）と北京杰通弁護士事務所の朱久虎（チュー・チョウフー）弁護士、である。
４年経って、中国の人権派弁護士の代表的名簿を再度見返してみると、全体として、中国の司法が不公平に扱い、当局も受け入れなかったがために、『アジア・ウィークリー』が風雲児と言った人々は、程度に差はあれ打撃をこうむり、軍隊にたとえれば「軍」の体をなしていない。莫少平（モー・シャオピン）弁護士は「潔白」であるが、他の13人は、刑罰に処せられたり、逮捕されたり、軟禁されたり、召喚されたり、誘拐されて殴られたり、弁護士資格の審査でストップをかけられたり、甚だしい場合には失踪したり、妻子と離散している。改革開放30年ではあるが、中国の人権派弁護士の生存環境は劣悪であり、人権擁護の道は依然として険しい。
許志永（シー・チーヨン）はかつて拘束され、現在は保証人を立てて審問を待つ段階；高智晟（カオ・チーション）はまだ行方不明だ；トウ彪（タン・ピアオ）はかつて講義を停止させられ、年に一度の弁護士資格審査が通らなかった；李柏光（リー・パイクァン）は、かつて拘束され、現在は保証人を立てて審問を待つ；郭飛雄（クオ・フェイシオン）は５年の刑罰を下される；浦志強（プー・チーチャン）は、国際メディアの訪問を受け入れたために自由を制限されている；郭国汀（クオ・クオティン）はカナダに追放された；李和平（リー・ハーピン）弁護士は、弁護士の資格審査をパスせず、何回も暴行を受けている；范業峰（ファン・イエフォン）は社会科学院での仕事を打ち切られた；張星水（チャン・シンシュイ）は彼が創設した事務所を継続させることができず、本人も弁護士の資格審査が通らなかった；朱久虎（チュー・チョウフー）は逮捕された後、保証人を立てて審問を待っている。4年前に中国の人権派弁護士は、中国の法治の道は困難であると述べていたが、彼らはその苦しみを経験しているのである。
しかしながら、中国においては、江天勇（チャン・ティエンヨン）、李勁松（リー・チンソン）、李方平（リー・ファンピン）、黎雄兵（リー・ヨンピン）、李春富（リー・チュンフー）、王雅軍（ワン・ヤーチン）、程海（チャン・ハイ）、唐吉田（タン・チーティエン）、楊慧文（ヤン・ホイウェン）、謝燕益（シエ・イェンイー）、李敦勇（リー・トンヨン）、温海波（ウェン・ハイポー）、劉巍（リョウ・ウェイ）、張立輝（チャン・リーホイ）、彭剣（パン・チェン）、李静林（リー・チンリン）、蘭志学（ラン・チーシュエ）、張凱（チャン・カイ）、劉暁原（リョウ・シャオユアン）、唐荊陵（タン・チンリン）、劉士輝（リョウ・シーホイ）などの正義感があり、良心的な人権派弁護士達が司法の不公平を変えるという使命を頑強に守っている。「北京弁護士協会の直接選挙」「政治的に敏感な事件を取り扱う」「集団的な公益事件を取り扱う」を推し進めているために、彼らもまた無実の罪を蒙り、休業させられ、殴られ、裁判官にバスケット・コートで手錠をはめられる、彼らは自己の遭遇する人権擁護の苦境を脱するためにも法治が必要なのである。
不安定な要素とみなされる
法律は一国の理想を支えるものであり、法治は国家の長期安定の根本である。弁護士は本来法律社会の産物であり、司法における弁護士の地位は法治の進歩を象徴している。中国の30年来の改革開放は、法治を守る弁護士の隊列をつくりあげ、司法もまた大きな進歩を遂げた。ただし、中国の法治の歩みが停滞して以降、特に政府と民衆との間に立つ弁護士活動が非合法とされて以降、民衆のために人権を擁護しようとする弁護士は、政府の一方的圧力を受けてきた。
『アジア・ウィークリー』がつかんだ情報によれば、2009年に北京で法律関係者の会議が開かれ、政府の担当者が情勢の安定の問題につき不安を表明し、情勢の不安定は、陳情をしようとする者、大胆に発言する老同志・老幹部、人権派の弁護士とジャーナリストによってもたらされていると発言している。
しかし法律の専門家は、情勢の安定と人権の擁護を対立させようという試みには同意していない。ハーバード大学の法学博士黄賢は、香港で『アジア・ウィークリー』に対し、マルクスもレーニンも法律を学んだことがある、レーニンは農民や流浪する職人の権利を守った弁護士でもあった、と語っている。黄賢は、近年、何回も論文を発表したり、呼びかけを行ったりして、中国は「社説によって国を治める」「スローガンによって国を治める」ことを止めるべきである、「現代国家は法治国であるべきで、すべてのことは制度化し、筋が通ったものでなければならない、コネを根絶し、隠れた規則を暴露しなければならない……そうしなければ、いかなる成功も線香花火のようになってしまうであろう。それは法則であって、そうなる確率があるというものではない；25の王朝が光り輝いた後に滅びたということが、そのことを証明している」と主張している。聞くところでは、中国共産党の指導者も黄賢の一部の表現の仕方を受け入れて、「真相を知らない大衆」とか「３つの敵対勢力」などの抽象的スローガンを使わなくなっているか、使うことに慎重になっている。黄賢は、いくつかのスローガンは自己の責任逃れのために使われており、「大衆にとって真相が不明であるならば、政府の説明が公開性や透明性の点において問題があるからで、責任は政府がとるべきである」と考えている。
1978年、黄賢は招待に応じて帰国し、北京大学、対外経済貿易大学で国際法などを講義した。また中信銀行と多数の政府の部・委員会の法律顧問を兼任して、多くの法律制定の仕事に関与した。1982年にスパイ罪で秦城に入獄し、1989年に名誉回復をした。黄賢は、改革開放以来30年、中国の最大の問題は法治が明確になっていないことで「これこそが、社会が乱れる問題の本質だ、中国共産党の胡錦濤総書記は、就任後第１回目の政治局の集団学習の場で、立憲政治について語っている。総書記は、民主、法治から立憲政治は始めるべきであり、そうすれば長く国を治めることができる、と述べたことがある」と語っている。黄賢は、中国共産党の執政の理念に基づくならば、立憲政治に戻り、法治に戻る改革をすることは、国家統治の重点である、と信じている。
中国は法治の暖かい日の光を必要としている。中国の十大弁護士の一人高智晟（カオ・チーション）弁護士が中国政府に対する公開質問状を発したために、彼の事務所は2005年に当局により業務を停止させられた。2006年高智晟は太石村事件と汕尾事件に取り組み、抗議のために絶食した。蘇家屯事件が明るみに出てからは、彼はこの事件の真相調査にも取り組もうとした。
2006年8月15日、高智晟は山東省の彼のお姉さんの家で逮捕された。当局は、国家政権転覆煽動罪で正式に逮捕したのである。逮捕後、高智晟の家族の人身は、当局の厳密なコントロールを受け、外部との正常な通信は遮断された。甚だしいことには高の妻にも暴力が振るわれた。拘禁中、高智晟とその家族は非人道的扱いを受けた。高智晟の妻・耿は、二人の子供を連れて米国に亡命せざるを得なかった。
人身の自由の代価を支払う
北京の晟智弁護士事務所の法律顧問として、郭飛雄（クオ・フェイシオン）は広東に南下し、南海、佛山、番禺などで人権擁護のために活動してきた。高智晟が逮捕された後、彼は救助活動を展開した。その後彼は、５年前に違法出版に関連したことで刑事拘留された。彼が他の弁護士に漏らしたところによると、当局の彼に対する尋問の多くが高智晟と太石村事件との関係についてのものであった。郭飛雄は、秘密裡に拘禁された時、「電気棒で男性生殖器を打つ」などの残虐な体刑を用いられて自白を強要された。2007年11月12日、広州市天河区裁判所は、違法な経営をした罪で懲役５年、罰金4万元（約5860米ドル）を言い渡した。彼は、現在も牢獄にいる。家族はアメリカに亡命した。
去年の8月、郭飛雄の代理人の北京の李柏光（リー・パイクァン）弁護士は、郭飛雄の１通のファックスを受け取った。そのファックスの中で、郭飛雄は、しばらくの間、江東の梅州刑務所まで会いに来なくていい、広東省の監獄局に対する申立てをしないようにと指示していた。李柏光弁護士は、広東省の監獄局に対し、ファックスの内容が本当であることを証明するためだったのか、郭飛雄の録音の提出を求めるつもりだった。ちょうどその頃、郭飛雄のもう一人の代理人の広東の弁護士・劉士輝（リョウ・シーホイ）が8月中に事務所から除名され、９月3日に広州市司法局から業務停止9か月の通知を受け取ったのだった。7月7日に劉士輝が郭飛雄にあった時には、郭飛雄は、刑務所の役人が囚人を死にいたらせる不法行為を告発すると報復にあうと言っていて、郭飛雄は傷だらけだった。面会は、途切れ途切れに２回であったが、その面会時間の半分以上は強行的に中断されたのである。
北京が住みにくくなったため、トウ彪（タン・ピアオ）は家族とともに深蝨ｳにやってきた。2003年に世論が広範に関心を寄せた「孫志剛事件」において、トウ彪と彼の同窓生・許志永（シー・チーヨン）、シュウ江（シュウ・チャン）は、「三博士上申書」事件により時の人となり、収容遣送制度を終焉させた……収容遣送制度は流浪人救助処に取って代わられた。トウ彪には思ってもみないことだったが、2005年以後、彼は少なからぬ人権派弁護士の人権擁護事件に関わりあうことになった。視覚障害の人権活動家・陳光誠（チェン・クアンチャン）は入獄が言い渡されて、北京から山東省に出かけていた10人以上の弁護士が、すごすごと帰ってこなければならなかった。
陳光誠事件の法廷が開廷する1日前に、許志永は、こそ泥のように監禁され、李勁松（リー・チンソン）と李方平（リー・ファンピン）は政府の雇った黒社会の人間によってゴムで覆った鉄棒で殴打され、頭から血が流れ出た、とトウ彪は述べている。トウ彪自身も３回にわたって殴られ、写真機を破壊された。警察に行っても誰に相手にしなかった。
2008年3月6日、トウ彪は家に居るところを、かつらを付けさせられて警察の車で連行され、秘密の尋問所で国家政権転覆煽動罪の嫌疑で取り調べを受けた。2日後に彼は釈放された。トウ彪は、4年前には地方当局が人権派弁護士に反感を持って迫害したが、それは事件の性質上のことであった。しかし、最近は、それが弁護士集団に対する恐れからのものに変化している、と述べている。
弁護士の執務資格を取り消される
杜光、戴晴ら数十名の学者、著名人が2009年6月に、「北京の十数か所の弁護士事務所と百名を超える弁護士が北京弁護士協会の本年度の審査にパスしなかったこと驚き」連名で公開状を明らかにし、「北京弁護士協会の人権派弁護士に対する迫害に抗議」した。それに先立つ2009年4月13日、北京弁護士協会は「2009年度弁護士執務審査についての通知」を公布し、北京全市の弁護士は4月20日から5月31日までの間に北京弁護士協会の年度審査を受けなければならないこと、審査に合格すれば弁護士協会の会員として再登録され、執務を継続することができるが、審査に不合格の場合は再登録はされず、弁護士執務証明は取り消され、執務を停止しなければならない旨を明らかにした。北京市司法局のフォン信泉と朱玉柱は、6月11日に、定められた期間内に審査にパスしなかった弁護士事務所は90、弁護士は1000名を超す、上記公開状が発表された時点でも10数か所の弁護士事務所と100名を超える弁護士がまだ審査を通過していないことを明らかにした。
2009年12月、『アジア・ウィークリー』が北京市の高博隆華事務所を訪問した時、同事務所の7名の弁護士（江天勇（チャン・ティエンヨン）、李和平（リー・ハーピン）、黎雄兵（リー・ヨンピン）、王雅軍（ワン・ヤーチン）、李春富（リー・チュンフー）を含む）と李和平弁護士の２名の助手は北京市司法局の年度審査と登録を通過していなかった。李和平弁護士は、陳光誠事件、教会の組織に関する事件などの少なからぬ「敏感」な事件に取り組み、最下層の人々のために献身してきた。このような事件を多く扱うようになって、李和平弁護士は「敏感な」人物となり、年度審査に通過せず、弁護士として執務する資格が取り上げられたのである。
高智晟弁護士が逮捕された時、李和平にも「監視」がつけられた。公安と保安の8人が３班に分かれて順番に彼の家の入り口で見張っていて、外出する人があれば後をつけた。去年の国慶節の前には、二人の警察官が李和平の12階の家の入り口に座り込んだが、このようなことは新年や重大事件発生の時には常態になってしまった。これは家族に対して非常に大きな圧力になる。李和平は、けっして意気阻喪していない、彼は、一人の弁護士として為すべきことをするだけだ、と考えている。彼は、中国政法大学の前校長の江平の以下の言葉をしっかりと覚えている、「法律にもとづいて進められていても、当事者の権益が省みられていないとすれば、それでは弁護士が尊重されているとは言えず、法治とは言えない。弁護士が興隆するということは法治が興隆するということであり、法治が興隆するということは国家が興隆するということである。」
京鼎弁護士事務所はいささか混乱状態である。2009年5月の審査については、事務所には執務の継続を認める旨の通知も、あるいは執務を中止せよとの通知も来ていない。事務所創設者の張星水（チャン・シンシュイ）は『アジア・ウィークリー』に対して、通知がないということが適法だというにしても、24人の弁護士中16人が転出したのではやってはいけない、と述べている。
報道では、京鼎弁護士事務所は、2008年には「中小企業の発展に貢献した優秀な弁護士事務所」、2009年には「民間企業の発展に貢献した優秀な弁護士事務所」に選ばれたものの、長期間にわたって土地を失った農民の人権擁護に尽力したこと、自己の分を守らないで各種の学術活動に関係したこと、宗教的案件に関与したこと、張星水弁護士が「08憲章」に署名したことにつき「罪」があると言われている。当局は、張星水が関連したことは、すべて「死罪」に値するとみている。張星水は、理性的に、温和な方式で人権を擁護することは一貫した原則であること、すべてのものごとを法律の枠組みの下で進めれば「社会の不公平・不公正問題は解決するし、そのほかの隠れた社会的災いも政府が解決することができる」と主張していたのである。実際、張星水が代理人を努めていた浙江省の農民の事件は国務院の法制局も重視し、調査班を派遣し、国内の主要なメディアも報道していたのである。これでは農民は、温家宝総理に錦旗を返上しなければならない。
去年の11月3日、中国社会科学院法学研究所副研究員、中国の地下教会のリーダーである范亜峰博士は、法学研究所より、「政治的原因」のため引き続いて研究をしてもらうことはできない旨を告知された。しかし、范亜峰博士は平然としている。彼は法学研究所に十分に世話になったと考えている。范亜峰は、憲法学、政治哲学と社会理論、儒学と神学を研究してきた。また、キリスト教徒の人権を擁護する弁護団、地下教会の権利擁護、中国公民の人権擁護連盟にも関与してきた。范亜峰は『アジア・ウィークリー』に対し、『アジア・ウィークリー』が人権派弁護士集団を押し出した報道は歴史の試練に耐えた、「人権を擁護してきた人々は、民主政治、立憲政治の力量を高めた、これは将来を洞察したものであった」と述べた。范亜峰は、中国の民間団体のうちでは人権派弁護士は比較的穏健で、逮捕された者も少ない、「穏健であることが実際民間団体の主流になっている」と述べている。
いかなる場合であっても、人権派弁護士は理性を放棄しないで暴力に立ち向かっている。彼らの平和的で理性的に行動するという信念は、法治にとって決定的に有利な要素である。范亜峰は、法律という形式により政治の進歩が促され、その先に将来の方向として民主立憲政治が見えてくる、と考えている。彼は「人権派弁護士が中国の政治を変革していく力を唯一リードしている、平和的に理性的に進めていくやり方こそ人権擁護にとって有効だ」と述べている。
私たちは好敵手だが敵ではない
北京市華一弁護士事務所の弁護士、事務所パートナーの浦志強（プー・チーチャン）は、背が高くて大きい北方人で、天安門事件の参加者である。依頼者の利益を守る時には、北方人の猛々しさは影を潜め、技巧、気力、胆力が現れる。浦志強は、センセーションを巻き起こした「中国農民調査」事件を担当したり、「禁書事件」では主任弁護人を務めたり、「南都事件」では喩華峰の代理人として訴えたりしたけれども、自分は一人の普通の弁護士である、と述べている。
山東省の農民の小グループが鎮の共産党委員会書記を批判する張り紙をしたところ、その批判が押さえつけられた；次に河南省の農民が共産党支部の書記を批判したところ、逆に訴えられたので、浦志強は、半年以上もこの事件に関わった。この事件は北京の共産党指導部を驚かせ、周永康、賀国強の指示で関係した農民は釈放された。浦志強が関わった事件において、共産党指導部の支持を受けたことは３回もあるが、彼は、それは法治の勝利ではない、と考えている。
浦志強が政治的に敏感な事件だとは考えない譚作人のような事件でも、当局の告発は人をその事件から遠ざけるので、浦志強は、なによりも政治的に敏感な事件にならないようにするために、法律を尊重し、法律がしてはならないということを弁護士が絶対にしてはならない、と考えている。「我々は、この政府と数十年にわたって付き合わなければならない。初めは憤激したり、恨んだりしたこともあったが、現在は平常心の状態だ。共産党は存在しているのであり、私も存在しているのである。我々は集団事件を解決することに前向きである。我々は好敵手であり、互いに敵ではない。お互いに付き合っていく必要がある」と浦志強は述べている。浦志強は、省や市や県の共産党の書記、局長たちと交流の機会があればよいと考えている。そういう機会があれば、浦志強は彼らに対し「我々は好敵手であり、付き合いをうまくやっていければ親友になれる、我々は共に祖国が発展し、地方が平穏であることを希望している」と話すつもりである。また浦志強は、多くの人々の恐れや懸念が取り除かれるならば、人権は必ず中国で確立されると考えている。彼は「人権の問題については、あなた方と協議していきたい、協議する前に私から人権をとりあげないでいただきたい」と述べるつもりである。
ここ数年、人権の擁護は香港へと広がってきている。北京の元坤弁護士事務所のシューチエ弁護士は、10年以上も紛糾し、当事者が北京へ陳情にも行った3件の仲裁裁決執行事件に取り組んでいる。またシューチエ弁護士は、話し合いを通じて香港商人の人権擁護のために陸偉萍が組織した案件を解決した。
香港商人が人権擁護のために上京する
オリンピック期間中、陸偉萍は香港商人を組織して新華門でスローガンを叫ばせ、北京の保安部門に大きな圧力を与えた。国慶節の前夜、彼女の夫が更に5名の香港商人を連れて北京に陳情に来た。シューチエは、陸偉萍の依頼に基づき回答を問い合わせ、その５名の香港商人を9月30日より前に北京から離れさせ、更に陸偉平に航空券を返させて国慶節に向けての北京連続訪問の行動を取りやめさせた。シューチエは、香港商人は大陸の法律制度を熟知していないので、事態が拡大したときに、弁護士が意見を述べれば、緩衝作用になって集団事件が少なくなることもあるのではないかと考えている。
去年、北京の法曹界では人の注目を集める重大事件が発生した、弁護士が1949年以来初めて、北京弁護士協会の弁護士を代表する者と会長の直接選挙を求めたのである。これは前々からの念願であった。この民主的プログラムは最後に干渉を受けて挫折した。この件において積極的役割を果たした安匯弁護士事務所は年度審査にパスしなかった。安匯弁護士事務所の童朝平（トン・チャオピン）主任弁護士は『アジア・ウィークリー』に対して、憲法裁判所を設立し、民主と法制を通じて無限に拡張しようとする政府権力を制約すべきであるということは以前から主張してきたことである、また司法部門は政治を重んじるように弁護士に要求しているが、我々は共産党の制定した法律に従っており、政治を重んじているからこそ法治の理念を守っている、と述べた。
最近、清華大学の社会学部社会発展研究グループは「利益表明の制度化は社会の長期安定を実現する」という報告を発表したが、同報告では「各級の政府は大量の人、物、金を使って平穏を維持しようとしているが、社会の矛盾と衝突は減少しておらず、かえって増加している」と指摘している。同報告を発表した専門家は次のように強調している。「新しい安定の論理は以下のとおりである。すなわち、憲法の与えた公民の合法的権利を守り、権利の保障があれば、相対的な利益の均衡が達成され、相対的な利益の均衡が達成されれば社会は安定する。これは社会の安定の問題を根本的に解決する道である。付け加えれば、権利を守るということは平穏を維持することであり、権利を守って初めて平穏を維持することが可能なのである」。しかし、人権を守る弁護士が自身の権益を守るのが難しいというのであれば、社会の安定とか司法の公正ということが全く話にならないということも明らかであろう！
（この論文は、弁護士河内が中国で人権派弁護士から受け取ったものである。）